三
三八さん (7vrsuldc)2021/4/13 16:08 (No.74260)削除雨の日。※流血表現あり※
寮のとある一室。
じくじくと古傷、首元近くから鎖骨を通って脇腹近くまで斜めに大きく傷が入った己の身体を見るといっても制服を着てしまえば鎖骨あたりまでしか見えないのだが。
窓からしとしとと降る雨を見ながら思い出す。
「・・・・・痛いなぁ」
首元近くから走る傷跡をなぞりながら忘れる事が出来ないあの日、妖が関係する事件に巻き込まれた日から私が見る世界は一変した。
いつもの学校からの帰り道普段より少し遅くなってしまったから早めに帰りたくて近道を使った・・・・そこの通りを横切れば後は目と鼻の先に家があったのに
その日は、少し違ってなんだか胸騒ぎのようなものを感じて余計に家に帰らなくてはと歩くペースから走るようなペースに変えた瞬間だった。
________静寂。
「・・・・っ、かっは、っ!」
気付いたら血まみれで強く壁に打ち付けられていた。
何が起きたのか全くわからなくて霞む視界とどくどくと心拍数がやけに鮮明に聞こえた中、見えたのはおぞましい姿をした何か。人間は言い知れぬ恐怖と対峙したとき声が出ないというのは本当なんだと変に冷静になりながらカヒュ・・・という息を飲む音だけは出て殺されるんだ、死ぬんだって脳内を何かが駆け巡るたぶんこれは走馬燈のようなものなんだろう・・・・
お母さんやお父さんより早く死ぬなんて親不孝過ぎる、先に逝く事を許してくださいと霞む視界に小さくポツリと零したような。
暗転。
そして未だ霞む視界にぱちぱちと瞬きをしながら周囲を見渡そうと動けばズキズキと痛み言葉にならぬ言葉が出たときに周囲に人の気配があって何やら処置や声かけをされているようなさらに目を凝らせばおぞましい姿をした何かと戦っている人?が見えたような・・・・
視界も意識も霞む中すごく、かっこよくてあんなモノと戦う勇気や覚悟があって・・・・・なんてまた気を失うまでぼんやりと思っていた気がする。
次に目を覚ました時は真っ白だった
どこか消毒の匂いがするような・・・・ぱちぱちと瞬きをする、そして起き上がろうとすればズキズキと痛みが走り声にならぬ声をあげベッドに逆戻りをしたと同時に看護師が入ってきて
ようやくここは病院だと思いそしてあれよあれよと両親とそして医者と見慣れぬ人とで何があったのかとか説明してもらった
その間にも、視界の端っこには人ならざるモノが見えてあまり話が入って来ず上の空だったものの人ならざるモノは〝妖〟というものというのと、その妖の力を持つ妖人が通う学園があるのだと言う事は聞こえて来た。
宿妖、というものが自分にも居るという事もなんとなく分かっていたからあんなモノと戦う人たちが集まる学校・・・・・・気付いたら口走っていた
「ワタシもその学校に通いたい・・・・っ!助けてくれた人みたいに強くなってワタシみたいな、ミトリみたいな子を助けたい」
見えない方が知らない方がよかったこの妖が視えるようになって片目の色も変わり怪我も傷跡は残ったが治り次第この妖と日々戦う世界にあの日から足を踏み入れ学園に編入したのは記憶に新しい。
「初めまして。神楽 美鳥といいます、妖のこととか何もわからないので教えて下さると嬉しいです。よろしくお願いします」
この世界の右も左も分からず戸惑う事ばかりだったけれど今もまだ戸惑ったりする。
優しくて厳しい先生方や同級生や先輩・後輩はたまに生きてる世界が違うんだなって、なんだか遠く感じる事もある
あるけど、あの人のように、ワタシも強く・・・・・なりたい、助けたい、だなんて傲慢でエゴかもしれないけれど・・・・・ミトリみたいな子を減らしたい、強くなりたい。
ただそれだけ、脆く不正確な願望かもしれない途中で挫折するかもしれないそれでもこの学園に来た時にもう決めてしまった。茨の道であろうと突き進むと___。
「早く、雨やまないかな・・・・・・」
一日でも早く、強くなるために。変わらず、あの日のことを忘れないように。
まずは憧れの人の背中が見えるくらいには・・・・・頑張る。
黄昏、しとしとと降っていた雨はいつの間にかざぁざぁと音をたてて降り続けている。